Wednesday, August 25, 2021The Shinro Shimbun Hawaii Edition14 アメリカ合衆国ハワイ州に所在する在ホノルル日本国総領事館の公邸料理人として活躍しているのが牧野雄太さんです。日本の調理師専門学校を卒業後、多くの老舗店や日本料理店で修行を積み、実力を磨いてきた経験を持つ日本料理のスペシャリストです。牧野さんにこれまでの料理人としてのキャリアパスを振り返っていただくと共に、日本留学を考えるハワイの若者にメッセージを送っていただきました。●Profile1974年、静岡県生まれ。辻調理師専門学校を卒業後、東京・京都・大阪の日本料理店で経験を積み、2004年仏国在ストラスブール日本国総領事館公邸料理人。20年11月に在ホノルル日本国総領事館の公邸料理人に任命され現在に至る。―現在のお仕事内容について教えてください。政府関係者やハワイ現地の企業関係者など、さまざまなゲストをホノルル日本国総領事館に招いて催される会食やレセプションパーティーで提供する料理の調理を担当しています。誤解を恐れずに言えば、自分の役割は"食の外交官"だと思っています。国と国との大事な話し合いの時に、美味しい料理をご提供することによって会話を弾ませ、外交を成功に導くお手伝いをするという気概を持って仕事に臨んでいます。食材の買い出しや仕込みなど、すべての作業を私一人で行っているため、一日中食材と向き合っている時間が多くなっています。食材選びは料理を成功させる上で欠かすことができませんし、鮮度の高い食材を手に入れる必要があります。ハワイは日本とは違い、魚を水洗いせずに、氷漬けにした状態で販売しているため、水揚げされてから一日でも経ってしまうと身に締まりがなくなってしまいます。そのように、新鮮な食材を手に入れるために朝早くから市場で吟味することが一日の仕事のスタートになります。―お仕事をする上で特に意識していることを教えてください。美味しい料理を作ることはもちろん、料理をゲストに出す際の演出にも気を遣うことで、外交がより楽しく穏やかに終わるように心がけています。和食の場合は昆布とかつお出汁をベースにすべての料理が構成されています。 見た目は洋食の雰囲気でも、食べてみると和食だったという意外性を楽しめる料理を創作するようにしています。パフェグラスに料理をキレイに盛りつけて、見た目はデザートのような料理なのに、実際に食べてみると前菜やメイン料理だったなど、視覚と味覚のギャップを上手に演出できた時や、ゲストが喜ぶ姿に接した瞬間に大きな達成感があります。日本には豊かな四季があります。日本料理を食べて、飲み込んだ際に鼻から抜けていく香りを楽しむ「風味」という表現がありますが、「ワサビ」「柚子」「山椒」などを使って四季の風味を表現するように意識しています。食材ごとに異なる風味を効果的に用いることによって、その季節の訪れをゲストが感じることができる工夫を施しています。ハワイも日本と同じ島国で、海と山の幸がどちらも豊富にあります。食材も力強く美味しい物ばかりです。日本料理は食材に備わっている本来の味を活かす料理方法が特徴ですが、それをどのようにしたらハーブや柑橘系など風味の強いハワイの食材とうまく合わせることができるのか、日々試行錯誤しています。難しさを感じることもありますが、同時にやりがいを感じる瞬間でもあります。―大変なのは特にどのようなところですか?仕入れの際に、食材の具体的な大きさや採りたてのものが欲しいといった要望を英語でスムーズに伝えることができない時に言葉の壁を感じます。そのような場面では、スマートフォンや身振り手振りを使ってコミュニケーションを取るようにしています。すべての料理を出し終わったタイミングで、ゲストにご挨拶をさせていただく時間では、さまざまなお褒めの言葉を頂戴しますが、その際も「英語ができれば料理に対する思いやメッセージをもっと細かく伝えることができるのに」と、歯がゆい気持ちになるのは否定できません。本当は一皿ずつお出しするたびに料理の説明ができたらゲストも美味しさが倍増するのではないかと悔しい気持ちになります。―料理人として必要な心構えを説いてください。料理人として働く上で最も大切なのは「食べることが好き」という一点に尽きるのではないでしょうか。高級店から普段使いのレストランなど、さまざまなお店で経験を積むことによって自分の中で美味しさの基準を確立させることが重要だと思います。 美味しい物を食べないと、美味しい物を作ることはできません。たくさん美味しい物を食べることで自分の舌と感覚を磨く必要があります。食べること以外には、私の場合、修行時代に親方から茶道や生け花に親しむように言われていました。当時はその意図を図りかねていましたが、いま振り返ると、美的センスを養うために必要だったのだと、その重要さが分かるようになりました。みなさんにも、例えば、美術館などに足を運んで美的センスを日頃から磨かれるといいのではないかと思います。―料理人を目指したきっかけはどこにありますか?父と母が料理好きで詳しかったため、子どもの頃から料理は常に身近にありました。高校一年生の頃、父に地元の料理屋に連れて行ってもらい、朝採れた新鮮な食材を調理する料理人の姿を見て憧れを抱くようになりました。高校卒業後に調理を学べる専門学校に進学し、調理師の資格を取得しました。 その後、東京・赤坂のある料亭で働き始めました。最初は、親方や先輩からの厳しい指導についていくのに必死でした。私たちの仕事は、人の命にも影響を及ぼしかねない仕事なので厳しく指導されていたのだと思います。感謝しています。―料理に興味のあるハワイの若者にメッセージをお願いします。日本料理に限らず、料理人を目指す若者が減少傾向にあります。さびしい限りですが、海外の若者が日本に留学して日本の料理や感性について学びたいと思ってもらえるのは、とても素敵なことです。ハワイの若者が希望の星になって、日本料理を日本人でなくても提供できるんだということを証明してくれたら嬉しく思います。 また、料理人として働く上では探究心を持つことが重要です。そして、さまざまなものを食べて舌を鍛えることですね。素材の味や特徴などを頭の中に叩き込んでください。調理する上で必ず役に立つでしょう。私が働いていた時代は「見て覚える」ことが当たり前でしたが、最近は、優しく寄り添いながら指導してくれることも多いようです。しかし、優しさに甘えてばかりいるのではなく、大事なのは自分でどう感じるかということ。夢を実現させるためにはどのような料理人になりたいのか、自分の中でしっかりとしたビジョンを描いているのかどうかが重要だと思います。学費の面では、国費外国人留学生制度の「専修学校留学生」のプログラムを活用することで、日本政府から奨学金を得て日本へ留学する国費外国人留学生の制度もあります。例えば専修学校の専門課程に留学する専修留学生では、調理以外にも教育や服飾関係などの分野が対象となっており、このような制度を活用しながら夢の実現に向けて努力をする道もあります。ぜひ興味がある方は、当館や文部科学省のウェブサイトをご覧ください。Special Interview牧野 雄太さん自分の料理で国と国をつなぐ公邸料理人は"食の外交官"美味しいものを食べることで舌の感覚と美的感性を養う
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